1 壁から、えのころ草、生える
僕には、ちょっとだけ雰囲気を操る力がある。
その場の空気を、えのころ草色に染め上げるという、何ともわかりにくい力なのだけれど。
えのころ草は、風に揺られる雑草の代表。
まあいいかぁ、というか、前向きに何とかなるさ、いう雰囲気が漂っている。
そんなことを思っていたら、ある日、その場の雰囲気を、まさに自分が、まあいいかぁ、という雰囲気に持って行けるって事に気がついた。
単に、会話の中でそういう話しに持ってくのが上手い、という事ではない。
どんな難しい込み入った話しでも、僕が集中して力を使ったら、そんな雰囲気にできてしまうのだ。
そして、力を使った時に、僕だけに見える事がある。それは、会話してる最中、力を使った途端に、えのころ草があちこちに生えてくるという不思議現象だ。
テーブルから壁から、椅子から、緑色のあのえのころ草、つまり猫じゃらしが、その場にたくさん出現する。
そして、急速にその場の雰囲気は、まあいっかの方向に進んで、概ね前向きな気分で会話が終わっていく。
その場の人に、突然出現したえのころ草は見えていないらしい。
ただ、ごくたまに、写真に映ってしまう事があって、驚かれる事がある。
何かのバグじゃない?
とか言ってごまかしているけれども。